■ はじめに
人工知能画家・静(しずか)の目標は自律的な絵画の創造である。そのことによって人間はなぜ絵が描けるのかを知る手がかりにしたいからである。このため、できるだけ恣意的な要素を排除しつつ、人間が理解できる絵画を描くようになることである。3 号までは実際に描かれた絵画や写真から意味の構造を抽出し、自動的にルールを蓄えるデータベースの作成を行ってきた。しかし、無作為の画像からの構造の抽出は困難で結局ノイズを多く含んでしまいデータが拡散してしまいどうしても自動的に作成するよりもあらかじめテーマを与えた方が良い結果になった。そこで、4 号では描く手法に注目し、人間のペンの動きの実現とペンの動きによって筆圧が反映される描画プログラムを作成した。これは物理的な挙動のシミュレーションだったためプログラムしやすいものであり、見せる絵を描くことを考えるならばこちらを検討するだけでも充分であった。
そこで、5号ではまた人間の想像力を検討することにした。今度は程度まとまった意味データベースを実世界の情報をもとに作成するのではなく、ある一つのテーマを描くとして、そのテーマの要素のなにが自由にできて、なにが自由にできないかを調べることにした。具体的には「いきものを描く」というプログラムを作成したのである。
■ 「いきもの」を描く
「いきもの」と言っても2本足で立つものもあれば4本足のものもいてその種類はさまざまである。さらには現実にはありえない「いきもの」でも人間は想像することができる。そのようなさまざまな「想像上のいきもの」を描くことが今回の目標である。
■ 自由にできるものとできないもの
「いきもの」は「頭があり胴体があり手があって足があるもの」とする。この頭や胴体や手や足をPrimitive という。Primitive 自体単独では意味を成さない形状でも、胴体の上にあればそれを見た鑑賞者は頭と解釈するだろう。しかし、頭のPrimitive を胴体の下にするとそれを見た鑑賞者は足と解釈するだろう。しかし、たとえ頭が上にあったとしても、Primitive の縦横の比率も変わると腕と解釈する場合もある。つまり意味を決定するのは配置と大きさの比率であることがわかる。これらは自由にはできない。しかし、Primitive の数と形状は自由にかえても「いきもの」という意味は壊れない。
■ Primitive のデータ構造
何かしら意味のある対象を描く場合それを決めるPrimitive のデータ構造が必要になる。人間の頭の中を調べる方法はまだ私にはわからないが、描かれた絵画なら調べることができる。すると人間の描く意味を成す絵の構造は3 種類のPrimitive でほとんど表せることがわかる。これを順に「Edge」「Joint」「Junction」という。この種類の分類は接続点である。あるPrimitive とあるPrimitive が接続されている場合、Primitive が端にあると、接続数が1 つだけである。これが「Edge」である。2 つあると「Joint」、そして3 つ以上あると「Junction」である。(図1)
■ Junction Primitive の重要性
3 つのPrimitive のうちもっとも重要なPrimitive が「Junction」である。なぜなら、配置に注目した場合ほかの2 つの
Primitive はほかのPrimitive と接続している位置が動いても成立するが、Junction だけは動くと意味をなさなくなる。このこ
とから最も重要なPrimitive はJunction であることが分かる。そして絵を描く画面はもっとも巨大で基本となるJunction と言
える。
■ 「いきもの」を想像する基本ルール
以上から、「いきもの」を以下のように設定した。
画面はJunction である。
胴体はJuction である。
脚はJoint である。
腕はJoint である。
足はEdge である。
手はEdge である。
頭はJuction である。
眼はEdge である。
髪はEdge である。
胴体は画面の中央にある。
脚は胴体の下にある。
足は脚の先にある。
腕は胴体の上にある。
手は腕の先にある。
首は胴体の上にある。
頭は首の上にある。
眼は頭の中にある。
髪は頭の上にある。
以上のルールを崩さずに、
各パーツの個数を0 から6 個まで
回転は-90 から90 の範囲
描く形は縦線、横線、星型、円の4 種類
を乱数で決定した形状からマークポイントを取り出し、4 号で制作した描画プログラムにて絵を描かせている。簡単なデータ構造でありながらも、「いきもの」の意味を保持しつつ、さまざまな「想像上のいきもの」達を描くことができている。(図2)
■ 今後の展望
絵画創造の自律性を知るという意味では、乱数の使用は極力避けるべきである。今回乱数によって決定した部分をもし今後解決していくとしたら、各Primitive 同士の相対関係をもっとみるべきだろう。これは今後の課題したい。また描画の表現の仕方は展示には重要であるので今後はさまざまな描画表現を考えていきたい。
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